どうしたんだ?という表情をすると、イケメン車夫は、料金表の下のほうに小さく書いてある、”観光税”のようなものを指さし、それも払ってくれ、という。
いくらか、と聞くと15ユーロだという。
ということは合計で ”40ユーロ” ということだ。
旅先での口論は避けたい、40ユーロで済むならそれでいいだろう。
無事教会まで届けてくれたことだし、観光税はイケメン拝観料だった、と思えばいい。
ということで追加の15ユーロ渡すと、少しほっとした表情だったが、それでも彼は納得しておらず、その場を立ち去ろうとしなかった。
やはり、チップが欲しいのだろうか(エストニア人はタイ人に負けずしつこいな)とも思ったが、どうもそうではないらしい。
イケメン車夫は、手招きして、座席に貼ってある小さな料金表と観光税の表示を見せてこういった
「これはひとり分の料金なんだ」
つまり、こういうことだったのである。
ひとりの運賃が25ユーロ、観光税が15ユーロ、合わせてひとり40ユーロ
ふたりだとすべてその倍の【80ユーロ】になるのだ!!
つまり、われわれは人力車1台、たった5分の走行で、80ユーロ払わされた、というわけだ。
80ユーロは、そのときの1ユーロ=125円だったので、日本円では【約10,000円】の計算となる。
その瞬間、イケメン車夫の顔が、冷酷で非情なヤクザ男の顔に変わった。
バブル期の日本でも、タクシーに乗って5分あたり1万円も払わされたことはなかっただろう。
ケンからは「だから言ったでしょ、あなたが鼻の下を伸ばすからこういうことになったのよ」と言われた。
それからタリン旧市街の美しい建物のどこを見ても、美しいとは思えず、レストランの食事も、カフェのコーヒーも決して安いとは思えなくなった。
なにより、あの冷酷なイケメン男のことが頭から離れなかった。
「あなたが、イケメンの運転する人力車に乗りたいばっかりに、料金をよく確認しなかったのがいけないのよ!」
とケンからは責められ続けた。