「どんな人間関係ですか?」すかさず聞いた
「まず本社との関係、そして日本人同士の問題、そしてタイ人の扱い方についてです」
「具体的には?」
「9時から5時までというのは、工場のラインで働く人たちの話です
我々は深夜まで働きます。
タイ人の能力は日本人の4分の1といわれています。つまり彼らのやり残した仕事を私がしているのです」
「なるほど・・・」ますます私は聞きたくなった
「ちょっと難しいですが、日本(本社)の人たちは、同じ人間だから
日本人1人の作業能力=タイ人1人の作業能力と考えています
でも現実には、
日本人1人の作業能力=タイ人4人の作業能力と同じまたはそれ以下なんです
でも、それを本社に説明しても分かってくれないんです
それが一番きついですね」という
工員さんたちの多くはもともと田舎で家畜の世話をしたりしてその日だけを生きてきた人たちだ
それがある日突然、工場が建ったからそこで働かないかと言われて集まってきた人たちなのだ
職業訓練を受けてきているわけではない
また高いプロ意識や勤労意欲に燃えて就職しているわけではない
とりあえず働き口があれば借金が返せる、雨漏りが直せる、バイクが買える
そんな考えで来ているのだ
「面接の時には方言がきつくて聞き取れないことも多いんですよ」とタイ語に堪能な植田さんが言う
「そうですか?方言までは私もわかりませんね」と私
「本社からは国際電話で、かなりきついことを言われます」と植田さん
「どんなことを言われるのですか?」ますます興味津々の私
「本社の部長からは『現地人を教育するのがお前の仕事だろう!そのためにお前を雇ってるんだ!お前が何とかしろ!お前がしっかりしてくれなくては困る!』と怒鳴られます。一見正論なんですが、本当にそれって難しいんですよね」
私(ひでき)個人の考えだが、日本企業のローカライゼーション(現地政策)は世界で最も遅れていると思う
コカコーラのように世界に支社をもっていて人材育成やモティベーションのノウハウをもっている会社はともかく、つい最近まで下町の部品工場だった会社がいきなり海外進出しても課題の山というものだ
本社は”日本流が正しい”といってそれを押し付けてくる。
なぜなら、日本ではそれで成功してきたらからだ。
だが、それを簡単にはタイ人は分かってはくれない、という
タイの現実は違うのだ
一旦海外に出ると、日本の常識は通用しない。
現地に出たら現地の流儀がある。
現地に沿った経営をしないといけない
それをしようとしないのが、日本企業だ。
なぜなら、日本企業自体が海外経験が少なすぎるからだ。
経営者を含む会社幹部に現地人を登用できていないのは日本企業だけだ
欧米企業は、昔っから現地にうまく溶け込み、宗教のように彼らを教育していく方法を心得ている。つまり、ローカライズが得意だ。
(米国西海岸の地名を思い出すとよい、Los Angeles, San Francisco, San Jose, Santa Barbara みんなカトリック布教のためつけたスペイン語の地名だ、彼らは宗教=人の心をまずつかんでから支配したのだ、金や仕事ではない)
サムライ企業のように頭ごなしに怒ったりせず、相手を把握してから指導してゆく。やがて現地企業のトップに育て上げてゆく。そんなことは植民地時代からやっていることだ。ノウハウの質と量が違う。
(サムライはラストサムライになったのだよ、覚えてる?)